車は動かさないに限る

 思い返してみれば、自動車のハンドルを握った回数よりも、自動車事故を目撃した回数の方が多い。このような境遇で自動車というものに何の不安も感じないのだとしたら、それはあまりに危機意識が欠けていると思うし、生まれつき過剰に危機意識が育まれる性質な私は、この先もペーパードライバーのままだろう。

 もっとも、明らかな重傷者や死者が出ているような事故を何度も目撃したわけではないのだが、重い事故でなければ危機感を持てないような者は、そもそも免許など取得すべきではないだろう。たしかに、自分の車が破損するだけであれば、車に過剰な愛情を持つことなど有り得そうにもない私にとっては大した問題ではないが、他人を巻き込んだり、公共物を破壊してしまった場合の責任が怖くてたまらない。実質的に責任の取りようのない事態を引き起こしてしまえば、その後の人生など最後まで生きた心地のしないままだろう。生業等の事情は別としても、やたらと早く自動車免許を取りたがる者に対して、私は子供の頃から良い印象を持てない。

 ただし、コレクション癖は強いため、大金持ちが乗りもせずに貴重な車を大量に集めて展示していたりするのは、なんとなく好ましく思えたりもする。オブジェのように展示されるクラシックカーや自動車のカタログだけで十分に満足できるタイプのカーマニアであれば、たぶん仲良くできると思う。