2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『東京腸女むすび』(18)

わたしが祖母のお墓参りをさぼっていた理由は、両親には車の運転が苦手だからだと伝えてあります。 罰当りな理由と思われるかもしれません。 嘘ではないのですけれど、しかし、やはりどこかで祖母の記憶と対峙することを避けていたのでしょうね。 「このお供…

『東京腸女むすび』(17)

「克仁さん」 わたしは、自分の頭がこれまでの人生でいちばん冴えわたっているような感覚になっていました。 名前を呼ばれた克仁さんは、そんなわたしの気分を、なんとなく察したようでした。ですが、それが自分にとってどんな未来を意味するのかは、分かっ…

『東京腸女むすび』(16)

結局、花火に興味のないわたしは、延々と好きなお笑い芸人さんのコントを頭の中で再生して、一人でくすくすうふふと思い出し笑いばかりしていました。本当に変な女ですね。そりゃあ、腸が飛び出たりもするわけです。 克仁さんは、やけに口数も少なく、花火を…

『東京腸女むすび』(15)

お昼休憩の時間に、克仁さんと喫茶店でお会いするのも、これで二度目になりました。 これで二度目というか、お休みの日にお会いしたことを含めても、まだ三回しかいっしょにお茶をしていないのですね。 今のわたしが、どれだけ男性とお付き合いすることに向…

『東京腸女むすび』(14)

サトウさんも交えて塔子さんとお会いしたことがありました。 そういえば、あの時も塔子さんは、自主制作映画のお手伝いをしていたのでした。 「撮影に使わせてもらうスタッフの部屋がド汚いから掃除しなくちゃいけないんだけど、なっちゃん掃除上手そうだか…

『東京腸女むすび』(13)

わたしは、今もなお、少年文学の名作『トム・ソーヤーの冒険』を最後まで読むことができていません。 しかし、私のお部屋の本棚には、『トム・ソーヤーの冒険』の古い文庫本があります。かつて、サトウさんからいただいたものです。 お付き合いしていた頃、…

『東京腸女むすび』(12)

町の行く末が心配になりそうな地方都市とはいえ、デパートの中のチェーン型喫茶店は、さすがにお客さんがわたしと克仁さんだけということはありませんでした。喫茶店の外に目を向けても、他の目的を持ってデパート内を歩く人たちが見えます。 わたしは、デパ…

『東京腸女むすび』(11)

「ちょっと心配してたけど、トラブルにはならなかったのかな?」 春ごろ話題になった映画のブルーレイが発売になったので、わたしが販促ポップをせっせと組み立てていると、岡田主任から声をかけられました。 「トラブルってなんのことですか?」 「あの、ほ…

『東京腸女むすび』(10)

裸のお付き合いというものを好む方が世の中にはいるそうです。 好むどころか、それをしないと他人とは分かりあえないとすら考えている人もいるとか。 おそろしいことです。 その人たちは、秘密裡に「裸の付き合い教」という宗教団体をつくり、それは、この日…