冬場の見知らぬ人

 ほぼ毎日、かなりの距離をジョギングしているらしいおじさん……いや、おじいさんと呼んでも差し支えないかもしれない年齢と思しき男性(60後半になる私の父よりも年上だと思うのだが、私の他人の年齢を推察する能力はあてにならないので、あまりはっきりとしたことは言えない)が、私の家の前の道を走り去っていく。私の家から4キロほど離れた母の実家の前でも目撃されていて、いつか途中で倒れてしまうのではないかと心配されている。熊だって出かねない土地でもあり、父にいたっては「ゆるやかな自殺のようでおっかない」とさえ言っている。

 もちろん、法的に問題のあることではないので、いくら心配だからとはいえ、どこの誰ともわからぬ高齢ランナーに何か忠告するのも気がひける。この場合の「心配」だって、その人の健康よりも、自分の家の近くで倒れられたら困るなという思いのほうが強いので、余計に何も言えないのだ。

 また、これまたどこの誰ともわからない高齢らしき方の運転する自動車が、家の近くをとてもゆっくりと、何か迷っているような雰囲気すら漂わせながら走って行くということがまれにある。認知症の方が彷徨っているのではないかと不安になる。畑ばかりが広がるこの土地では、畑の傍に自動車が放置されているなんてことは日常風景で(特に軽トラックなんかは、ずっと置きっぱなしだったりする)、もし中で亡くなっている方がいたとしても、なかなか気づかれることはなさそうだ。

 一応、あやしげな車に気づいた時は、なるべくナンバーを控え、ネットで捜索願い等が公表されていないかどうか調べたりはしているのだが、いずれにしてもあまり気持ちの良いものではない。人通り、車通りの激しい街中ならば気にもとめなくなるのだろうが、そういう土地でもないので、人や車の気配がするたびに、いちいちあれこれ考えてしまう。

 そろそろ暖かくなり、雪もなくなり、畑で仕事をする人も増える。そうなれば、あまりこちらが気に病む必要もなくなる。見知らぬ人たちを気にすることのストレスは結構なものなので、この時期は、あまり心穏やかではいられないのだ。