3月下旬の弁当自販機はアイルランド訛りの日本語で対応する

 ツイッターで続けている文字数制限140字ちょうど(ただし「」付きなので、実質138文字)の短いお話を毎日1作投稿する活動(リハビリ的な意味もある)。3月後半のまとめ(30日と31日にツイート予定のものも含む)。



「弁当の自動販売機を久しぶりに見つけたので、ためしに買ってみる。先に羊が弁当を食べていて少し驚くが、ちゃんと椅子に腰かけ、箸を使って食べているので安心である。羊が私の弁当を見て、からあげは大豆で出来ていますが大丈夫ですか、と訊いてくる。むしろ好ましいです、と答えて私も弁当を頂く」(2017年3月16日木曜日)

「150年ほど前まで実在していた、ノーザンと呼ばれる嗅覚だけで他の全ての感覚を補っていた人たちについての資料を読む。嗅覚を失えば他の全ての感覚も失ってしまうため、ノーザンであることを悟られぬよう生きていたらしく、いまだはっきりとしたことは分かっていない。故に資料の匂いも酷く薄い」(2017年3月17日金曜日)

「答え合わせ検定2級の資格を得たものの、試験官が無資格だったことが判明し、なかったことにされる。ちょっとやけになり“人間に答えなんかわかるわけがない”と叫ぶと、たまたま通りかかった検定協会の会長が“その通り”と答えた。こんな単純な人が会長の資格なんてないほうがいいのかもしれない」(2017年3月18日土曜日)

「金縛りに遭う。女性らしき幽霊が何か訴えようとしているのだが、間の悪いことに私は鼻の頭が痒くてたまらず、しかし金縛りのため掻くことができない。集中して怖がることもできず、見かねた女性が鼻を掻こうとしてくれるも幽霊なので手は空を切るばかり。そのうち、もういいです、と言い残し消えた」(2017年3月19日日曜日)

「胡瓜のとげをどうにかなくせないものかと思い、一日中、やさしく胡瓜を抱いて、愛のある言葉をかけてみる。当然、胡瓜は何の反応もしめさず、それどころか、しなしなとくたびれていった。姉がやってきて、世界には愛があるだけの言葉なんて溢れかえっているから胡瓜がくたびれるのも当然だと言った」(2017年3月20日月曜日)

「父親から海に叩き落されるなどの折檻を受けて育った男は、自分の息子に対しても同じような教育方針で臨み、海に叩き落としたのだが、息子はそのまま浮かんでこなかった。すると根性で生き返った男の父親が、お前の遺伝子が貧弱なせいだと叫び、男を縄で縛って海に落とした。男も浮かんでこなかった」(2017年3月21日火曜日)

「コンピュータが、自殺する者のほうが悪いと考える人がいなくなれば自殺者は大幅に減少し、社会もより良くなるというシミュレーション結果を出したが、その事実を公表した場合、自殺反対派と自殺願望者の大規模な争いにより人類は壊滅するという結果が出てしまい、私は生まれて初めて酒に手を出した」(2017年3月22日水曜日)

「家の前に馬がいる。どうやら近くの草むらで食事するため、別の馬と待ち合わせしているらしい。私も暇なので、しばらく馬と会話する。馬が喋るようになって20年程たつが、『ミスター・エド』のことをどう思っているのか気になったので聞いてみると、あんなに面白い馬はそうそういませんと言われる」(2017年3月23日木曜日)

「春が近づいてきたせいか、身体が少し縮む。春の気候に慣れれば元通りになるのだが、説明が面倒なので、味噌を多めに入れた鍋でも食べて身体を膨らませることにする。しかし、店には安いきのこしかなく、新鮮な春菊を投入したところで、色の悪い鍋しかできない。仕方なくきのこ抜きの鍋をこしらえる」(2017年3月24日金曜日)

「郵便局までの道すがら、目玉を蹴飛ばしていく。ぼよんとした弾力があり、汚れもつきにくいので、落ちてから時間が経っていることがわかる。これなら蹴飛ばして遊んでも構わないだろう。あまり大きな目玉ではないので、何度か蹴飛ばし損ねて踏んでしまいそうになるが、弾力のおかげで潰さずに済んだ」(2017年3月25日土曜日)

「小さな蛙たちが人間のような体勢で道路を全力疾走している。なんだかヨーデルが似合うような気がしたので慌ててヨーデル歌手を探すも、この辺りにヨーデル歌手がいるはずもなく、仕方ないので頭の中でヨーデルを流してみる。あまりに気持ち良かったのでついつい下手なヨーデルが口から洩れてしまう」(2017年3月26日日曜日)

「下校する小学生たちの多くが、肩にかなへびを乗せている。どうやら小学生たちの間で流行っているらしい。どう手懐けたのかわからないが、どのかなへびも大人しく肩でじっとしている。もうすぐ私の時代が来るはずです、と蛙が呟くのを見て、苦手の代表とされたことをまだ根に持っているのだなと思う」(2017年3月27日月曜日)

「ホンマさんの人参畑の真ん中に、見知らぬ青年が、じっと立ちつづけている。心配になってホンマさんに知らせにいくと、人参の葉をついばむ鳥が来ないよう見張る仕事をしているのだと教えてくれた。青年は、本当は大根を見守りたかったらしいが、背に腹は替えられぬと言い真面目に仕事しているらしい」(2017年3月28日火曜日)

「車の自動運転システムを研究していた伯父は、ある日、システムが発達した結果、運転技術以外に誇れるもののない人間たちが管理システムを破壊し、世界中がパニックに陥る予知夢を見てしまい、それ以降、寝る間も惜しんで破壊されないシステムの研究を続けたが、居眠り運転による事故で命を落とした」(2017年3月29日水曜日)

「道路の真ん中にだるま落としがある。小さな子供が遊んでしまわないよう、歩道へよけておく。通りがかりのおばあさんが、懐かしいねえと言ってだるまを撫でると、道路が急に細い砂利道に変わる。これで車は通れないから、と言い、おばあさんは立ち去る。私は他の道もこうしてくださいと言いそびれる」(2017年3月30日木曜日)

アイルランド訛りの人だからすぐにわかると思うよ、と言われたが、英語自体がほとんどわからないので、初対面の相手との待ち合わせにおける手がかりが“アイルランド訛り”だと言われても困る。幸い、アイルランド訛りの日本語を喋る人だったので助かったが、私の前世をあまりあてにしないでほしい」(2017年3月31日金曜日)