2月下旬に出会ったねこふやしはパトリシア・F・ジョーンズを知らない

 ツイッターで続けている文字数制限140字ちょうど(ただし「」付きなので、実質138文字)の短いお話を毎日1作投稿する活動(リハビリ的な意味もある)。2月後半のまとめ。



「ねこふやしに出くわした。夜中に小腹がすいて、コンビニであんまんでもなんて考えてしまったのが間違いだった。あんた猫嫌いでしょう、と無遠慮に顔を近づけてくる。下品な香水のような匂いがして、あんまんなんていらなくなる。猫なんか増やさないで、と言いたいが、それでは思う壺なので無視する」(2017年2月16日木曜日)

「世界が孫だらけになってしまい、毎年のお年玉に苦労することになったジロキチじいさんは、切った爪が500円玉になるという奇妙な進化を遂げた。これで苦労することはないと喜んでいるが、こんな進化を遂げるまで生き続けるジロキチじいさんの子孫は、いったいどれだけ増えていってしまうのだろう」(2017年2月17日金曜日)

「親に内緒で飼い始めた2匹目のロアロアは、口の小さいカバのような姿で、私が“出てきてもいいよ”と呼ぶまでは、壁と棚の間などに隠れてじっとしている。ロアロアなんて処分しないと大人になれないと言うけれど、きっと沢山の人がそれぞれのロアロアを隠れて飼っている。でないと世界は終わってる」(2017年2月18日土曜日)

「やる気がないからお前の朝顔は咲かないんだ、と私に言った教師が悲惨な死を遂げた年、私の家の庭には大量のタンポポが咲き乱れ、なるほど花は近くにいる人の気分に左右されるのだなと理解し、笑顔で葬儀に行こうと決めた。やる気だけで花は咲かないけれど、殺る気になれば困るくらい咲くものなのだ」(2017年2月19日日曜日)

「死んだ後、あなたのやってきたことは全て間違いでした、なんて言われたら、驚いて生き返ってしまいそうなので、なるべく多くの価値観を座標として生きていこうとしているのですけれど、死んだ後にあらゆることの正否を判断できる存在の価値観なんて理解できるはずもないので、朝ご飯はパンにします」(2017年2月20日月曜日)

「ご自由にお持ち帰り下さい、と書かれた箱の中に、前から欲しかった本が入っているのを見つけ、お言葉に甘えて頂いて帰ろうとしたのだけれど、大きな本なのでとても重く、自転車に乗せてもバランスが悪い。幸運によって世界のバランスも崩れたのか、家までの距離も普段の3倍近くになり途方に暮れる」(2017年2月21日火曜日)

「親しくしているカラスから、鳥頭という言葉をなくせないものかと相談される。残念ながら私に世相を変えるほどの影響力はないし、そういった活動に熱心な方々も鳥のことまで考えてはくれまい。カラスはそんな私の心情を察したのか、やはり諦めます、ですが突きたい頭があります、と言って飛び去った」(2017年2月22日水曜日)

「おかとびうおがたくさん獲れたというので、兄の家へ向かう。この時期のおかとびうおは、雑草に身を傷つけられていないので、とても美味しい。しかし、兄は酷いがさつ者なので、せっかくのおかとびうおも傷だらけになっているかもしれず、わざわざ向かう必要はなかったかもしれないと後悔しはじめる」(2017年2月23日木曜日)

「きのこ狩りを生業とする伯父は、普段の食事できのこを食すことはなく、ゆえに将来的には医者になりたいのだと言う。なにが“ゆえに”なのかわからなかったが、つい最近になって、医者になればきのこを好きなだけ食すことができるし、万が一いけないきのこを食しても自分でなんとかできるかららしい」(2017年2月24日金曜日)

「やけに水道料金が高いので調べてみたら、蛇口が勝手に水をがぶがぶと飲んでいることがわかった。どうやら病気らしいので、蛇口の大手術がはじまったのだが、その過程で家の基礎を削っていた際、配管の一部を傷つけてしまい、蛇口はごぶぅんと赤茶色のどぶ水を吐きだし、へなへなとしおれてしまった」(2017年2月25日土曜日)

「窓ガラスの内側にアルテミアが泳ぎはじめてしまった。拭いても意味はないが、なんとなく丹念に拭き掃除をする。ガラスの透明度が上がり、よりはっきり見えるようになる。専用の薬をスプレーすれば消えのだが、汚れてしまうし、消えるだけだとわかっていても気がひけるため、冬まで我慢すべきか迷う」(2017年2月26日日曜日)

「ひとでに話しかけられる。声がくぐもっているので、裏側でしゃべっているらしい。すると、俺はうつ伏せで話しているんだ、お前が裏側だと思ってる方が表だ、と私の考えを読み取ったかのような言葉を発した。俺はお前に背を向けて話している、よく考えろ。私はひとでを踏み潰すのはやめることにした」(2017年2月27日月曜日)

「7人目のパトリシア・F・ジョーンズは、25歳の時に知り合った恋人の名前がサミュエルではなかった。7人のパトリシア・F・ジョーンズは、名前や生年月日だけでなく、その経歴までほぼ同じだったが、それぞれ一つずつ細かい経歴が異なった。だが顔があまりに違う為、誰も間違えることはなかった」(2017年2月28日火曜日)