風邪は治ったようだが心の風邪はこじらせたまま

 また夜中にキツネが騒ぎはじめている。漫画などでは「こーん、こーん」と愛らしいオノマトペで表現されるキツネの鳴き声だが、もちろん、愛らしく鳴いている場合もあるのだけれど、隣の農家が所有する倉庫裏に棲みついているらしいキツネ一家は、なんというか赤子が首を絞められているような「きゃふん!きゃふん!」という悲痛とも思える鳴き声を延々と響かせ続けるものだから、体調的にはすんなり眠れそうな時でも鳴き声が気になって仕方なく、結局は導眠剤を服用して強制的に自らを眠りに落とさなければいけなくなったりする。

 特にキツネの生態に詳しいわけでもないし、こっそり住処の近辺を探ってみたりもしたのだけれど、怪我をした子ぎつねがいるでもなく、悲痛な鳴き声の意味を知ることは叶わなかった。

 もっとも、仮に怪我や病気のキツネが苦しんでいたところで、私に出来ることなど基本的にはない。せいぜい、保健所に連絡するくらいだ。だいたい、どうにか手を尽くして助けたところで、吉岡里帆の姿になってお礼をしてくれるわけでもないし、現実的に得るものといえばエキノコックスくらいのものだろう。そんなものもらってしまったら、自分自身が保健所の厄介になってしまう。それに、世界の摂理がねじれて、本当に吉岡里帆の姿をしたキツネがお礼にやって来たとしても、私のような人間は事態を呑み込むことができず、ただでさえ壊れかけの精神が完全に崩壊して閉鎖病棟に放り込まれる危険性もある。数年前から「いるらしい」と噂に聞いていて、つい最近、ようやくその姿を目撃することのできた近所のうさぎにしても、なんらかの形で救ってやった後、NHK Eテレの『シャキーン!』でうさぎに扮している玉城ティナのような姿で現れでもしたら、こちらは「自分のような人間がこの人(うさぎ?)の視界に入って良いものだろうか」などと考えて、ついには舌を噛んで自決してしまうだろう。やはり、野生動物には、あまり干渉するべきではない。

 あれこれと阿呆なことを書き散らかしている時点で、すでにまともな神経ではない気もするが、そもそもそれはキツネ一家の悲痛な鳴き声による睡眠不足も原因の一つであるはずなので、世界をより良いものにしたいと考える方々は、是非ともキツネないしうさぎが姿を変えて私のもとへお詫びに来ることを願ってほしい。それが叶えば、私のような厄介者は上記の通り隔離されることになるだろうから、たぶん世の中も少し良い方向へ向かう。