『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(62)

 白樺は中学と高校の校歌でも歌われるほど一帯に群生しており、血を流す個体がいたところで子供であれば驚くこともなかった。白樺に群がるクワガタを採り過ぎた小学生が小麦の乾燥工場の奥に沈んだままでいるという噂が流れ、町内の小学生たちが肝試しに行くたびに猫の死骸を見つけて埋葬していた。クリハラは乾燥工場に沈んだ小学生の同級生だったらしく、実際には野球部の兄に禿山へ追い立てられたまま戻ってこなくなったのだと話していたが、今なお捜索されている気配はない。餅を飲む爺さんがデスモスチルスの歯だと言い張る石を拾ったこと以外に特筆すべき出来事は以降も起きていない。

 禿山から戻ってこなくなった小学生の兄は、その日以来、裸同然の姿で学校行事に参加している夢を頻繁に見るようになり、毎晩のようにうなされているらしい。夢の中の彼は、当たり前のように全裸や全裸に近しい姿で振舞っているものの、気付かれれば現実のように大恥をかくことは理解できるのだという。私は宿泊を伴う学校行事のたび、いかにして食事と入浴を他の者に気づかれぬうちに済ませるか頭を悩ませていたせいか、彼の見ている悪夢の切実さが多少は理解できる気がした。しかし、理解を寄せ過ぎれば自分も似たような悪夢に苛まれるため、彼の家の最寄の川から滝石を拾って神棚に祀っておいた。