「熊を叱る」

 熊は愛されている。

 熊が街中にひとりでいると、多くの者が集まってくる。皆が甲斐甲斐しく帰り道を示してくれる。

 熊に齧られ巣に籠ったままの兎を愛してくれるのは数少ない親鳥だけで、大抵は狩りもできない生物失格として笑われる。

 熊は愛されている。

 熊を叱るのは、熊の怖さを知った辺境の僅かな住人だけであり、時として彼らは非難の対象にすらなる。

 熊の怖さを知る住人たちに兎を外へ連れ出す余裕はなく、それもまた世間の理解を得られずにいる。

 だが熊は愛されている。