風に慣れたい。いや、やっぱり殴りたい。

 風が強いと苛々してしまう。強い日差しも暑さも寒さも雨も雪も雷も体調まで悪化させる低気圧も、なんだか大抵の気候は苦手な気もするのだが、日差しは遮ることが可能で、暑さ寒さも文明の利器をフル活用できれば、どうにか今のところは凌げている。雨は屋内にいれば当然凌げるし、音も大きさの差はあれど基本的には一定のリズムで降ってくれるので不快にはならない。雪は音がしないし、除雪は辛いが自分の判断で休憩も中止もできる。低気圧による体調不良は、おとなしく眠ることさえできればどうにかなる。しかし、風は強ければ強いほど鳴り響く音に規則性がなくなり、そのうえ雷と違って音が止む時間がほとんどない。換気扇などが嫌なタイミングで唸り声を上げたりすると、ぶち壊したくなったりもする。騒音に敏感なのは、通院を続けてもあまり改善されず、結果として強風への憎しみは以前よりも増大している気がする。なにせ、屋外はもちろん、屋内でも煩わしさから解放されない。

 強い風が撒き散らす騒音は、頭の悪そうな人間が不必要に響かせる自動車のエンジン音に似ている。音の質感というより、こちらの神経を逆撫でする嫌らしさがである。人生を捨てる気になれば、車や車の持ち主を鉄パイプかなにかで殴りつけることは可能だが、風には実体がないのでそれすら不可能だ。風の神なるものが存在するとして、神を罵倒してしまえば逆効果であろう。かといって、ここまで不快にさせられてしまうと敬う気にもなれない。こちらが聴覚か人生そのものを捨てなければならないのだろうか。そんな横暴な奴に屈するわけにはいかないのだが、対抗する手段も思いつかないのである。