2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『空にかたつむりを見たかい?』 第12回

「絵?」 「うん。っていうか、アユムの家にもあるよ」 「えっ?」 「二回も同じ音出すと、馬鹿みたいに見えるよ」 マリサからその話を聞いたのは、中学一年の夏休み直前、ちょうど今から一年前のことだった。 マリサの言う「絵」とは何か。 その「絵」は、…

『空にかたつむりを見たかい?』 第11回

ところで、国島先生の「なにか良くないことの前触れ」という発言だけれど、カマドウマはたくさん出たし、虻や蝶はたしかに例年より少なかったかもしれない。でもそれが、その年に限ったことだったかどうかはわからない。 実際、ネットで「カマドウマ 大量発…

『空にかたつむりを見たかい?』 第10回

「じゃあ、晴れた日を狙って、その川に行くの?」 パンを食べ終え、浸すものがなくなったマリサは、スープだけを啜ってから言った。 「夏休みになれば、何回か晴れるかなと思ってね」 「でも、晴れるたびに、あの川ばっかりにいたら、さすがに怪しまれるでし…

『空にかたつむりを見たかい?』 第9回

「そういえば、かたつむりって蝸牛って書くよね」 マリサが正面にいる僕を睨むようにして言う。本当に睨んでいるのかどうかはわからないけれど、マリサの目つきは大抵こんな感じだ。 「アユムの言ってる空飛ぶかたつむりと、大竹さんの見た手乗り牛も何か関…

『空にかたつむりを見たかい?』 第8回

「そういえば、昔、さまぁ~ずの大竹さんが、手乗り牛を見たって言ってた」 眉間に皺を寄せながら、ちぎったコッペパンをスープに浸し、マリサは言った。 食事中のマリサは、いつも不機嫌そうな顔をしている。どうして、そんなに不味そうな顔で食べるのだろ…

『空にかたつむりを見たかい?』 第7回

ついでに、僕が企んでいることも、こっそり白状しておこう。 僕が三歳のころのことだ。 母さんが、家から四百メートルほど離れたところにある川まで散歩に連れていってくれた。よく晴れた日だったけれど、前日までは大雨だった。だから、道路はまだ少し濡れ…

『空にかたつむりを見たかい?』 第6回

「塔子さんは、一度も見たことないんですか?」 「なにを?」 「ここの盛り上がってた時期の運動会です」 「あたしは知悦部小の子たちが進む中学校の出身ってだけで、知悦部小の子じゃないからね。そもそも小学校までは、札幌にいたし」 「中学になってから…

『空にかたつむりを見たかい?』 第5回

「手が止まってるよ、あゆむん。そんなに運動会の写真つまらない?」 塔子さんが、ペットボトルのお茶を僕の頬に押し付けながら言った。考えごとをはじめると、手が止まるのは僕の癖だ。「僕の癖」と呼べるほど珍しい癖ではないけれど。 「向こうで知り合っ…