『元・引きこもりの13日の金曜日VS悪魔のいけにえ 〜語り部 死神〜』第4話

『元・引きこもりの13日の金曜日VS悪魔のいけにえ語り部 死神〜』第4話
           
            (原案:真子晃『13日の金曜日VS引きこもり』)


「共同脚本ってはじめてだったけど、結構面白いもんだな」
 ガガの死を担当した死神が言った。彼は、生前シナリオライターだったらしい。
 死神が初めて演出を担当する人間は、人間だった頃の死神に死をもたらした人物になることが多い。彼は、ガガがプロの暗殺者となるための試験で殺された。ゆえに、ガガの寿命が尽きる今日まで、見習い死神として彷徨い続けていた。見習い期間は、当然私より長く、8年以上に及んだ。
 彼とは昨年出会った。野呂瀬琢磨とガガの寿命が、偶然にも同時期に終わることがわかり、どうせならということで、共同で演出することにした。「『ベルリン・天使の詩』の天使を死神にしたみたいだな」と彼は言った。私はその映画を観た事がなかったから、彼の発言がこの状況にふさわしいものかどうかはわからなかったが。
「しかし、本当に書いた通りに死ぬんだな。あいつらの感情まで書かれた通りになるとはね」
シナリオライターとしてはどう? どう書こうと、書いた通りになるってのは?」
ラクでいいけど、まあ、ライターとしてはダメになるな。もう関係ないからいいけどさ。でも、あんたの演出相手はシナリオ以上に苦しんでたな」
「当然だよ」
 レディーに殺されかけた時の野呂瀬琢磨は眉ひとつ動かさなかったらしい。だが、それは死んだも同然の引きこもり生活に絶望していたからだ。だが、彼は暗殺者として「生き」はじめた。生きていれば、死ぬ恐怖も感じる。野呂瀬琢磨があのように苦しみ、恐れ、みっともなく死んでいったのは、野呂瀬琢磨が生きていたことの何よりの証拠だろう。
「でも、あの女まで一緒に殺しちゃってよかったわけ? まだ寿命じゃないんだろ?」
「いいんだ。あの女だって、直接殺しはしてないが、ずっと黙って現場を見てたんだ。それにあの女が死ぬところまではシナリオに書いてない。殺したのは男の自由意思だ」
「ああ、なるほどね」
 レディーは寿命に関係なく演出の過程で殺した。人間の寿命そのものに手を出すことはできないが(短くはできても、長くはできない)、演出の一環として、他の人間を殺すのは自由である。まあ、今回は“役者”がアドリブで殺してしまった、というのが正確な言い方になる。
「それに、どうしてもそれが納得できないっていうなら……あの女も死神になるだけだ」
 そう。レディーは死神になるための条件をほぼクリアしている。
「そうなったら、あの女の初演出は、あの大男か」
「そうなる可能性が高いだろうね。でも、生前人を殺せなかった女だ。望まないかもしれないな」
「しかし、自分が直接殺すのは駄目で、殺すサポートをするのはOKっておかしくないか? どういうアタマしてたんだ、あの女は?」
「知ったことじゃない」
「まあ、いずれにしても、ああいう死に方がお似合いだって言えるかもな」
 彼の言う通り、自分の手で暗殺を行うことは拒否しながら、組織の存在は許容し、野呂瀬琢磨の暗殺行為のサポートをしていたレディーは、ある意味、野呂瀬琢磨やガガ以上に汚い存在だと言えるかもしれない。
「そんな女が死神になることを望んだとしたら、ホント、とんでもない女だな」
「いや、望まなかったら望まなかったで、自分の汚さに気づいてないってことにもなる」
「ああ、なるほどな」
 そう、この期に及んで人を殺せないと言うなら、自分の立ち位置が既に殺人鬼と変わらないという自覚がないのだろう。既に殺しているも同然だということをわかっていないのだろう。無自覚であるほどタチの悪いこともない。
「じゃあ、どう転んだってあの女は既に最低の人殺しってことか」
「そう思う。世間がどう思うかは知らないけどね」
「しかし、あんた、なんだか楽しそうだな」
 野呂瀬琢磨は、死んだ。
 レディーも、死んだ。
 かつてこの二人に殺された私は今、死神として、生きている。
 私は今、生きている。




 死神の条件

・寿命を全うせずに絶命していること
・その死に加害者と呼べる存在がいること
・死神の演出によって死んだわけではないこと
・死神になることを望んでいること
・死神であることを楽しめること


 (完)

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(『元・引きこもりの13日の金曜日VS悪魔のいけにえ語り部 死神〜』第1話)


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(『元・引きこもりの13日の金曜日VS悪魔のいけにえ語り部 死神〜』第2話)


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(『元・引きこもりの13日の金曜日VS悪魔のいけにえ語り部 死神〜』第3話)