相手は凶器を所持している

 高橋克実さんは月に2回のヘアカット通いを続けているそうだが、私は年に2回しかヘアカットに足を運ばない。ゆえに、一年の大半をウッドストック中津川フォークジャンボリーに放り込まれれば保護色で見えなくなってしまうような風体で過ごしているのだが、ここ数年はどういうわけか、髪を切った直後のほうが女性に間違われるようになった。

 もっとも、スポーツマン的な髪形が肌に合わないため、髪を切った直後でも世間的には髪の長い男の部類の入るのだろうけれど、それでも切った後のほうが女性のように見えるということは、おそらく伸びきっている時の私は相当に怪しい男の雰囲気を醸し出しているのだろう。だからといって、髪を切ってからひと月くらいの状態を保とうとすると、当然、年2回のヘアカットでは足りなくなる。しかし、どうにも髪を切られている時の緊張感が苦手で回数を増やす気にはなれない。

 よく、他人に髪を触れられるのが苦手という人がいて、私もそれは同意するのだけれど、私の髪を切ってくれている美容師さんは、小学校入学前からの付き合いなので、さすがにその人に髪を触れられることが嫌なわけではない。だが、カット中に余計な動作をして仕事に支障があっては双方共に困ったことになるし、沈黙も気まずいが、こちらから話しかけるタイミングというものも難しい。相手が話しかけてくれた場合でも、最適な返事を真剣に考えてしまうと姿勢が崩れてしまうし、かといって適当に受け答えするわけにもいかない。

 だいたい、髪を触れられることばかり取り沙汰されているように感じるが、髪に触れる側だって、別に好き好んで触っているわけでもない。髪を触れたくもない相手というのもきっと存在していて、髪を切ってくれている美容師や床屋が正に自分のことをそう感じている可能性だってあるわけで、だとすれば尚更こちらは仕事をはやく終えることができるよう気を遣わなければならない。ハサミだけでなく剃刀だって忍ばせているのだから、相手はこちらの命を奪うことは簡単なのである(考えてみれば歯医者も同じだ。定期検診で毎回褒めていただけるのでいい気になっていたが、これもまた回数を増やすなど金銭面の問題に目を瞑ったとしても言語道断であろう)。超危険地帯に勤務する警官でもあるまいに、そのような緊張状態に年2回以上も身を置くなど、ただでさえ貧弱な精神の持主である私には可能なはずもない。今後も1年の大半を怪しげな男として生きる他ないのである。

 

 

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