雪は降る、あなたは来ない、というか「あなた」と呼べる人がいねえ

 北海道各所で観測史上稀に見る遅さとなった初雪。私の住まいの周辺も、既に除雪の必要性のない程度の雪景色となり、どちらかと言えば緑の多い景色のほうが好きな私としては、だんだんと面白みのない風景になってしまう時期なのだけれども、年がら年中グリーンな景色の土地だと、でかいゴキブリやらでかい蜘蛛やら、できれば出くわしたくない生き物たちがわんさか溢れていることだろう。地元・北海道に逃げ帰ってきたのは、ゴキブリの出現に怯えつづけるストレスに耐えられなかったからでもあるので、そんな私がオールシーズングリーンな土地に住むことは難しい。3~4ヶ月ほど景色がつまらなくなるくらいは我慢しよう。

 さて、乾燥肌のうえに神経症的に手洗いや掃除を行ってしまう私は、毎年この時期になると常に手のどこかしらがひび割れて、酷い時には知らず知らずにのうちに自殺未遂でも起こしたかの如く血まみれになっていることもある。神奈川在住時も鑑識が混乱しかねないほどの血痕をカーペットに残してしまったわけだが、そのルミノール反応出まくりのカーペットもゴミとして処理して久しい。現在は布団のシーツが同じような有様になりつつあり、いくら洗濯しても落しきれなかった血の痕がかなり目立ちはじめている。最初から鼻血の固まったような色のシーツであれば問題ないのではないかとも考えたが、そんな色のシーツが売られているのかどうか怪しいし、仮に売られていたとしても、ただでさえ精神的に不安定な私がそのようなシーツで安眠できるものだろうか。やはり、眠るのならば淡い色にくるまれていたほうが良いだろう。

 しかし、淡かろうが濃かろうが、毎日のように血液を吸い取り続けたシーツというのは、なんだか恐ろしい存在にも思えてくる。そのうち意志を持ちはじめ、手始めに私を丸呑みにし、家を抜け出し、夜な夜な生き血を求めて人を襲いだすかもしれない。スティーヴン・キングの短篇小説『人間圧搾機』は、クリーニング用圧搾機が人間を洗濯物のように折りたたんで殺しはじめる物語で、圧搾機が魔物化したきっかけは偶然にも悪魔召喚に必要な物を圧搾機が得てしまったからだったが、その必要な物というのが墓場の土、夜に採取した苔、処女の血、などなど……。小学校入学前からレンタルビデオ屋に行くたびに、ホラーコーナーの片隅で禍々しい空気を醸し出す「ドキュメント」の欄で『ジャンク』シリーズや『デスファイル』シリーズなどのパッケージを興味深く眺めていたような人間だから、墓場の土や夜に採取した苔くらいなら、無意識のうちにシーツにぶちまけていても不思議ではないかもしれない。貴重なモテ期を異性への興味を持つ前に使い果たしたと思われる私には「処女の血」というのは縁がなさそうだが、圧搾機ならともかく、シーツを魔物化させるだけなら童貞の血とか貧弱なもやし男の血でもかまわないような気もする。日々の洗濯がどれだけ浄化の効果を持っているのかわからないが、私のシーツが魔物化する日はそう遠くないのかもしれない。『人間圧搾機』のようなスプラッターな死に様にはならないだろうが、念の為、ご用心。

 

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