あなたが立てた中指が痛い

 今でこそ滅多に写真になど写り込まない私であるが、幼稚園や小学校では集合写真やら、行事なんかの際には知らないうちに撮影されているような場合もあって、なかなか無遠慮なカメラの目から逃れきれていなかった。笑えと言われて笑顔を見せられるような素直な性格に生まれてこなかったので、大抵はカメラに対して敵意の視線を送っているのだが、前述の通り、知らないうちに撮影されてしまった場合のものだと、後に写真の存在に気づいてから現在に至るまで撮影者に対して憎しみを抱き続けることになる。言霊や呪いの力を信じる心が僅かにでもあるのなら、私を勝手に撮影しないほうが良い。

 もっとも、いくら素直な性格に生まれてこなかったとは言え、さすがに幼稚園や小学校に通っていた時から、いちいち撮影者に対して口に出して罵声を浴びせるほど人格が破綻していたわけでもなく、せいぜい無愛想な表情のまま黙っているだけで、鈍い撮影者なら私がカメラを快く思っていないことにすら気がついていない可能性もある。ゆえに、幼稚園のクリスマス会で撮られてしまった写真のなかに、私が中指を立てているものが存在するが、誰からも叱られなかったことからもわかる通り、幼稚園児がその意味を知って敢えて中指を立ててみせたと考えた者はいなかったようで、撮影された瞬間、たまたま手の形がそうなってしまっただけだと思われていたようだ。残念ながら、わかってやっていたのだけれど。

 モザイク処理されることもあるこのポーズ、後に私は映画版『じゃじゃ馬億万長者』に倣って「カリフォルニアの挨拶」と呼ぶことにしたのだが、今となっては何をきっかけに知ったのかがはっきりと思い出せない。なんとなく、年齢の離れた従兄弟から教わったような気がするのだけれど、強いて確認する必要性も感じない。幼児性を遺憾なく発揮して、ところかまわず中指を立てて人を不快にさせていたというのなら、教えて従兄弟の責任も追及すべき問題なのかもしれないが、むしろ私は、早めにその意味を知ったおかげで、偶然中指だけが立ってしまうことがないよう気をつけていたくらいなのだ。今だって、ツイッターなんかで不愉快な意見が流れてきた時にディスプレイに向けて一人でやってみせる程度である。

 大きな親指を持って生まれた主人公がヒッチハイカーとなる『カウガール・ブルース』という映画化もされた小説があるが、大きな中指を持って生まれた主人公がトラブルを起こしまくるような物語もあるのかもしれない。私もおそらく結構な数の人間を不快にさせてきたと思うが、中指きっかけのトラブルは幸いにして一度もない。様になるほど長い中指はしていないのだ。

ビバリー・ヒルビリーズ ~じゃじゃ馬億万長者 [VHS]

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カウガール・ブルース

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