ケーキも甘いがガソリンも甘い(らしい)

 私が3歳の頃、誕生日でもクリスマスでもなく、その他なんらかの記念日等でもない日に、伯母が大きなものではなかったがホールケーキを持って現れたことがある。当時からさほどケーキが好物だったわけでもなく、他人からの贈与品に対してやけに警戒心を発揮する可愛げのない幼児であったことは、頻繁に交流のあった伯母も知っていたはずなのだけれど、そんな伯母がバタークリームメインの少々安っぽいケーキも持って来たのは、たまたまガソリンスタンドの景品で当たったからだった。

 馴染みの薄い者からの土産だと、下手をすれば近づく素振りすらみせないこともあった幼児期の私だが(2歳くらいの頃、とある親戚の持ってきた焼き菓子が一緒に来ていた従兄弟が箱の上から触りまくったせいで無残な姿になっていたことがあり、どうもその一件から妙な警戒心が芽生えてしまったらしい)、しょっちゅう会っている伯母がガソリンスタンドで当てたものだと知り、さほど警戒することなく頂いたのだが、味のほうはさっぱり覚えていない。

 おぼろげな記憶だが、私の幼児期くらいの頃、ガソリンスタンドではケーキのプレゼントというのが結構あったように思う。実際にスタンドの景品のケーキを食べたのは伯母の一件のみだが、スタンドに「~リットルの給油でケーキが当たる」といったのぼりが立っているのを何度か目にしている。現在の私は、意地でも自分の車を持とうとしない大の自動車嫌いの人間に育ってしまったため、最近のガソリンスタンド事情には疎く、こういったサービスが今も頻繁に行われているのかどうかは知らない。新聞に載っている自動車販売店のイベント等の広告には、親と共に訪れる子供の気を惹くためか、ケーキやアメリカンドッグといった食品も用意している旨が書かれていたりするが、ホールケーキのプレゼントが行われているという記載を目にした記憶はない。駄洒落のようになってしまうが、あの頃ほど景気が良くないせいだろうか。それにしたって、ガソリンスタンドにホールケーキというのは、あまりそぐわない気もする。車で食すには、運転手はもちろん、同乗者だって難しい。ドーナツくらいのほうが良いと思う。

 悪ガキの度胸試しにはガソリンを飲むというのもあるらしく、味は甘いなんて話も聞いたことがある。しかし、まさか甘いもの繋がりでケーキをプレゼントしていたわけではないだろう。さすがに幼児時代の私も、ガソリンスタンドで当たったケーキだからガソリンが含まれているかもしれないなどとは考えなかったし、たいして親しくない親戚よりもスタンドの店員のほうが信用できると思うのは今も変わらない。