米は炊くもの

 炊飯器が煙をあげていた。米が炊き上がる時に立ち上る蒸気ではなく、あきらかに配線がどうかした場合に出てくる嫌な煙であった。壊れたということである。長くもないが短くもない程度の付き合いであったが、この炊飯器氏とはお別れのようである。

 かくして、新たな炊飯器氏を迎え入れる必要が生じてしまったわけだが、その気になれば炊飯器に頼らずとも米を炊くことは可能なわけで、「必要」というほどのことだろうか、なんて気分が一族全員の心に居座っていたらしく、新たな家族を迎え入れるための準備がはじまる気配はしばらく見受けられなかった。

 しかし、日本の社会情勢的なあれこれのことも思うと、さすがに今月中にはどうにかせねばというわけで、たいして心躍るわけでもない家電売り場へ向かうことになった(我が一族には、家電に対して熱く語れるような情熱を持っている者はいない。その情熱の欠落も腰が重くなった要因の一つであろう)。不必要なほど熱心にあれこれ説明してくる店員がいないことを祈る。