『空にかたつむりを見たかい?』 第2回

 知悦部小学校の閉校記念式典で流す映像の制作を頼まれたのは、中学二年になってすぐのことだった。

 小学生の頃から現在まで、ずっと放送委員であること。そして、僕の代が知悦部小学校の最後の卒業生(僕たちが入学した後の二年間は新入生が入学しなかったため、現在の知悦部小学校に六年生はいない)であることが直接の理由だが、中学一年の夏休みに友人たちと作った、ちょっとした映像作品のことも関係している。「作品」なんて呼ぶのは、おこがましい気もするけれど、他に言いようがない。

 その映像作品は、夏休みの自由作品として制作した。この辺りの学校は、児童に農家の子供が多かったせいか、小学校も中学校も夏休みの宿題はあまり多くない。農家の子供は、家の手伝いをすることが多かったからだと思う。機械に頼ることの多い現在は、手伝いに駆り出される子供もそうそういないので、時代に沿っているとは言えないのかもしれないが、そのままで一向に構わない。

 中学一年の時の宿題は、担任の北条先生が作った数学の問題集と自由作品だけだった。自由作品は、その名の通り工作でも自由研究でも何でもいいので、夏休み中に何か一つ「作品」を制作すればいい。

 隣町の大きな湖には、地底人ならぬ湖底人が住んでいるという噂というか伝説というか、とにかくそんな話があるのだけれど、その話を『川口浩探検隊』風に描いたフェイク・ドキュメンタリーというのが、僕たちの作品の内容だ。

 タイトルもそれらしく『謎の湖底人シタカルトは実在した! 志太狩(しかたり)湖に白い水棲人を追え!』とした。本当は『湖の底の音楽家』というタイトルのドラマだったのだけれど、ドラマとしての演技をするのが恥ずかしくてやめにした。スタッフや出演者は、幼馴染のダイチと中学での放送委員仲間であるマリサ以外は、自分で作品を作りたくなかったものぐさな連中で、もし演技することが恥ずかしくなかったとしても、見ている側が恥ずかしくてたまらなくなるような演技しかできなかったことだろう。ゆえに、元々やらせ感満載な点が見どころでもあった『川口浩探検隊』のパロディというのは、賢い選択だったと思う。

 この場合、演技はクサい方が効果的だった。もっとも、ダイチとマリサ以外は、当然のようにこの往年のテレビ番組を知らなかったので、撮影前にDVDの鑑賞会を行った。僕だって、小学生の時に土佐先生から教えてもらっていなければ、ずっと知らないままだっただろう。

 この『謎の湖底人シタカルト~』は、一部の物好きな教師と生徒たちからの評価は受けたものの、基本的には陰で嘲笑されただけだった。お叱りを受けなかっただけ幸いだと思う。だが、なんとなく某動画サイトに投稿してみたところ、思いのほか評判となり、画面に沢山の草が生えた。僕は草、つまりネットにおける「www」というやつが、「(笑)」同様あまり好きではなかったのだけれど、自分が作った映像の狙った笑いどころに草が生えてくるのは、たしかにいい気分だった。狙っていないところでも草は生えていたが、それはそれで興味深かった。ちなみに当初は、本家『川口浩探検隊』に登場した猿人バーゴンがフランク・ザッパに似ていたことにちなんで、エンドクレジットにザッパの『バカヤロばかり』を流していたのだけれど、投稿にあたって何かと面倒なことになると嫌だったので削除しておいた。残念と言えば残念だ。