『空にかたつむりを見たかい?』 第14回

知悦部小学校校長 楠本正一   ――知悦部小学校と地域を語る

 

 校長の楠本です。赴任してきて二年で閉校というのは、寂しい限りですね。

 ……あ、ちょっと固いかい? 固いのは式典の時の挨拶とか記念誌に書く文章だけで充分かな。

 そうかそうか。好きにしゃべっていいんだったね。編集点とか大丈夫? そっちでうまいことやる? じゃあ、よろしく頼むよ。なんか、まずい発言があったらカットしといてね。

 いや、噂で聞いてたんだよ。すごく、にぎやかな地域だって。酒に強くないと、地域の人とうまくやっていけないとか、そんな話まであってね。まあ、今はそうでもないみたいだったね。

 でも、昔はすごかったみたいだね。運動会とかね。昔のビデオ、ちょっと見せてもらったけど、ホントすごいね。コンテナあんなに積んじゃって危ないよねえ。でも大怪我は、ああいう危なそうな競技よりも、リレーとか、どこでもやってる競技の方で出たらしいね。真剣だったんだろうね、みんな。

 あと、昔の運動会のビデオで面白かったのは、あれだね、輪回し。鉄の、なんか、あれ、直径六十センチくらいあるのかな。あれを、またこれも鉄製なのかな、細い棒みたいなのでシャーって転がしてくのね。お年寄りの人たちが子供の頃にやってたらしいよね。だから、あの競技だけ、老人会の人たちが圧勝するんだよね。なんか、ちょっと痛快だったねえ。僕も、そろそろ老人と呼ばれる年齢だからね。あ、もう充分呼ばれてるかな。

 あの、子供たちよりも自分が楽しむんだっていう大人たちの真剣さがね、なんか素敵だと思うよ。楽しい姿を見せるっていうのは、とっても大事なことだと思うね。僕もいろいろ考えてはいるんだけど、なかなかうまくはいかなくて。いやあ、うらやましかったよ。

 ああ、学校の中ね。これも、ビデオ見ていて思ったんだけど、昔の方が綺麗だったかな。いや、そりゃ出来たばっかりだから、綺麗なのは当たり前なんだけど、草取りとか色々丁寧にされてたのかな。まあ、どんどん人も少なくなって、手も回らなくなったんだろうけど、ちょっとそこは寂しいね。

 玄関は……さほど変わらないかな。まあ、二年しかいない僕が言うのも、おかしいかもしれないけど。

 廊下……いや、ワークスペースだったね。広くとってあるよね。吹き抜けになってて、開放感がある。床は……ちょっと汚れただろうね。この校舎になって、もう二十年以上経つんだものね。そりゃ、ある程度は仕方ない。これもまた、風情っていうものとして愛でてほしいね。

 あ、プールかい? うん。プールはいいんじゃないかな。ちょっと校長として、恥ずかしいかな。もちろん、最低限のことはしているつもりだけど……うん、周りがちょっとひどいね。撮影しないでおこうか。まあ、グラウンドや体育館と違って、閉校したら使うこともないだろうからね。

 どうなのかな。卒業してから、もっと時間の経ってる人なんかは、結構うるうるきたりするのかな。嫌な思い出が多かったら、そうでもないかな。高山君はどう? どちらにしても、まだそんなに感傷的になるほどの時間でもないかな。

 なんか、とりとめもなくしゃべっちゃってるけど、本当に大丈夫かな? なんとかする? あ、なんとかなる? すごいね。むしろ、こういう方がいい? そりゃ、よかった。