深夜のラブホで「見えない二人」

 幼少期に何度も訪れたり、近くを通ったりした馴染み深い場所のうち、数か所が現在は心霊スポットとなっている。比較的、世間に対しての恨みつらみが激しい子供だった気はするが、だからといって私が原因ではないはずだ。30代も後半に差し掛かれば、幼少期の想い出の場所が廃墟と化していることも珍しくなくなるということなのだろうが、はっきりと「心霊スポット」として紹介されてしまうほど荒れ果てなくとも良かろうに。

 しかし、畑や森林が大部分を占める「大空と大地の中で」的な僻地に生まれ育ったため、そういった土地に点在する何かしらの施設等が潰れてしまうと、すぐに人ならざる存在を感じさせてしまうようなタイプの廃墟と化すのも無理はない。あらためて調べてみると、なかには廃墟となる前から怪奇スポット/危険スポットとして知られていた場所さえ存在していた。

 そのうちのひとつが、その存在意義ゆえに人里離れた場所に建てられていることも多かった田舎のラブホテルである。位置関係の問題から、様々な目的地までの道のりとして、時には小学校行事でのバス移動でも近くを通ることとなり、何度もそのいかにもな外観を目にしていたのだが、どうやら営業していた時代(すでに子供の目には、潰れて廃墟化した遊園地にしか見えなかった)から、「斧を持った管理人が追いかけて来る」といった都市伝説的怪談が一部で囁かれていたらしい。ちなみに、小学校低学年の頃、『悪魔の沼』を初めて観た時、このラブホテルのことが脳裏に浮かんだ。

 心霊スポット/怪奇スポットとなるような場所は、廃墟化する前から蠱惑的ないかがわしさを感じさせる場所だったことも少なくないだろう。件のラブホテルも、おそらく私以外の多くの者が、幼少期に何かしら根拠もなく、そういった匂いを嗅ぎとっていたと思われる。そんな子供たちが自分たちだけで好きに行動できるまでに成長した時、肝試し的な悪い遊びに興じようとすれば、必然的に浮かび上がってくるのが、件のラブホテルのような場所なのだろう。少なくとも、「子供たちの訝しげな視線によって、よくないものたちが集まった」といったようなオカルティックな考え方よりは納得できる。

 いずれにせよ、得体の知れない存在も怖いが、反社会的な者がたむろしているのも怖いし、なにより不快害虫が大量に蠢いているであろうことを考えると、私は大金を積まれても検証しに行く気にはならない。