『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(52)

 平日に暇な時間ができても、日中のテレビは大半が下世話でやかましく、かといって教育テレビは番組自体が様変わりしていても、根底に流れるものは学校すら通わずに済んでいた頃と変わらず、すぐにいたたまれなくなるであろうことは容易に想像できたので、人目を避けつつも外出せざるを得なくなる。その日は、レンタルショップで不祥事を起こしたアーティストの作品が廃棄されていないかどうか確認に出かけ、特に問題もなく「こ」の棚に、その他大勢として紛れ込んでいたので、商品を眺めつつ周りのまばらな客を観察していたが、聞き覚えのある誰かの「あったよ!あったよ!」という声が聞こえた。小学校中学年頃の自分の声に似ているが、あくまでも自分自身に聞こえている声なので、録音された自分の声を聞くような不快感がない。「顔と声が合っていない」というダマヤの指摘が、いずれかは褒めてくれているのか、はたまた全てを貶されているのか、後者にしか思えない私は結局耳を塞ぎたくなる。おそらく父親と会話しているらしい聞き覚えのある誰かの声は、その後に振りかかかる苦悩は勿論、当時の休日以外での悩みさえ一時的に忘れ得ているようで、私はいくら頭を振っても喉が詰まり、急いで店を出るしかなかった。高田渡の「ブラザー軒」まで思い出していれば、頓服薬を服用していただろう。

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