ハロウィンを知る前、アンパンマンを素直に楽しめた頃

 「ハロウィン」と呼ばれる祭りが存在しているということは、クリスマスや七夕と同様に物心ついた時には既に知っていた。だが、その由来とされる説のひとつが「天国と地獄の間をさまよう魂の救済」だと知ったのは、3歳か4歳頃に『それいけ!アンパンマン』の中でジャムおじさんが説明しているのを見た時だった(たしか、ジャムおじさんは「天国にも地獄にも行かせてもらえなかった人」と表現していた)。正体丸わかりの仮装をしたカバオくんたちの姿にバタコさんとチーズが本気で怯えている姿が描かれており、幼児向けアニメとはいえ、なんだか観ているこちらがバカにされているような気持ちになってしまい、そろそろ視聴を卒業しようと感じ始めた回でもある。

 可愛げの欠落した幼児期の私の心情はともかく、少なくとも1989年~1991年頃の『アンパンマン』では、仮装も「Trick or Treat」も描かれていたので、私と同世代の者であれば、祭りの名目のもと、周囲の大人に「菓子か悪戯か」という理不尽な選択を迫った経験が実際にある者も少なくないのかもしれない。ただ、私自身は北海道の僻地に育ち、通っていた保育園の園児数も少なく、そもそも民家と民家の間隔が1キロ以上という場所も珍しくない環境だったため、いくら園児の保護者の家に限定しても「Trick or Treat」を実践して練り歩くことは不可能に近く、なんとなくそんな催しがあるらしいとだけは知りつつ、せいぜい食事にカボチャに関連したデザートが足される程度のことであった(それすらも実際にあったかどうか怪しい)。

 やけに世間がハロウィンに浮かれるようになったのは、物心どころか、自分が生きていくための金銭を自分で稼がねばならなくなり始めた頃で、いろいろと不安や悩みも多く、とても仮装などして浮かれてしまえる気分にはなれなかった。いや、不安や悩みが極限まで深刻化していれば理性が崩壊して誰よりも浮かれていた危険性もあるが、幸か不幸かそうはならなかった。しかし、そうなってしまえた方が「ラク」ではあったことだろう。『アンパンマン』を素直に楽しめる年齢であれば、いくらハロウィンに浮かれようと、悪意のある者以外に攻撃されることもなかったろうが、今や自分が「悪意のある者」に近づいてしまった感すらあるのだった。