われにここをキャンプ地とする用意あり

 犯人が逮捕されただけでは事件解決とはいえないということは、あまり力の入っていなさそうな刑事ドラマの中でさえ描かれてきたことなので、平和に暮らし続けてきた庶民でも大半は理解していると思っていた。だが、実際に自分が巻き込まれると冷静ではいられなくなるのか、はたまた「解決ではない」とは知っているが具体的にどんな流れが考えられるかといった予想ができないのか、なんだか「平和ボケだなあ」などという無責任で手垢のついた感想が漏れてしまいそうになる場面を見てしまった。

 10月31日に埼玉県蕨市の郵便局で発生した拳銃立てこもり事件のことである。見てしまったと言っても、私は北海道の辺境で悶々としているだけの生き物なので、もちろん、テレビのニュース番組を眺めていただけだ。犯人逮捕後の現場の様子を伝える映像において、近所の住人らしき人物が車を警官に止められていたのだが、まだ家に入れないことに腹を立てたらしく「もう犯人は捕まったんだろ!」と怒鳴っていた。当然、早く帰宅したい気持ちはわかるし、どうにかならないものかと規制線の周囲で様子を窺う人たちの姿も多くみられた。避難場所に帰宅可能な状態になったかどうかの案内があったのかどうかは分からないし、警察の対応に不備があったのかもしれない。案内がない場合、私もダメ元で様子を見に行くような気はする。しかし、あくまでも「ダメ元」である。犯人は拳銃を所持していただけでなく、発砲までしているのだから、銃弾が近隣に落ちている可能性だってあるわけで、そう簡単に現場が落ち着かないであろうことは容易に想像できそうなものだ。

 実際、私が見た映像の範囲では、大半の人々は困惑し嘆いてはいても警官に食ってかかることはなかった。もっとも、上記の車の人物が映し出された時点で不快な気分になり、チャンネルを替えてしまったので、さらに見苦しい展開が繰り広げられていたのかもしれないが、帰宅可能との案内があったのならばともかく、事件があったと知った段階で、長時間帰宅できない可能性を考慮できないのは、どうも思慮が浅いように思うのである。