2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(15)

翌日、中庭を歩いていると拍手をくれた学生が「調子はどう?」と声をかけてきた。「裸で歩いても崇められるようになった」と私は答えた。彼は「神のようだ」と笑った。お嬢と同じくヘンリー・ワイアットのファンであった彼とは、地元警官へのインタビューも…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(14)

「存在しているだけで支持者の支えになるのが推しというものだ。推しは非常時もただ存在してくれれば良い。慰めや励ましの言葉すら不要だ。それらは時として逆効果にさえなる。ならば推しはただ存在していてくれれば良い。少なくともお前たちがとやかく言う…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(13)

フカヅメの説教は珍しく全校生徒にまでは向かなかったため、血糊が増えても私は予定通りの時間に帰宅することができた。この時の事は五年後にボギーや山上にも話した。食事担当だった私は、ケンタッキーフライドチキンを大量に購入しておいたが、無関係の学…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(12)

高校はそれぞれが異なる学校に進んだため、最初の文化祭で数名の騒がしい男子がモトムラ先生の恥ずかしい写真を奪って逃げている場面に出くわしても、私は黙って観察するだけだったし、止める義理も助ける義理もなかった。はじめのうちはモトムラ先生も油断…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(11)

スクーターに乗ったノアちゃんが裏口から逃げ出すのを確認し、私は表の塀を乗り越えて市街地に向かった。追手の多くは騒ぐばかりだったので、私は防風林に紛れるだけでよかった。古百合前のお嬢の友人が経営する洋服店がノアちゃんのバイト先で、私は店の奥…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(10)

中磯瀬の古書店はただの掘っ建て小屋で、床というものもなく、本棚もあぶれた本も直接大地の上に置かれていた。湿気を吸って酷い状態のものもあったが、湿気を吸い込む前から酷い内容のものばかりでもあったため、御主人は信用に足る人物なのだというクリハ…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(9)

列車を改装したらしい図書館を見つけたのは十五になったばかりの頃で、その時はまだチャボやクリハラのような友人もいて、かすかに浮かれて歩くこともあった。鷲別の図書館には植物の本が多いなどと無駄な知識の自慢をしつつ背表紙を素早くチェックしている…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(8)

祖母の管理するビニルハウスの傍にはピンク色のアルマジロに似た生き物がいた。柔らかそうな体をしており、窓から家に侵入してきた時には、祖母が手爪も気にせず捕まえて外へ放りだした。軽い怪我を負ったため伯母達が「早くしないせいだ」と騒ぐので、私は…