酒など飲まずにおそれている

 酒を飲まない私は酒呑みな人間と比べて、死ぬかと思った経験も、死ぬかもしれないという予感も、それぞれ三分の一くらいは少なく生きてこれたはずなのだけれど、あくまで体感的には、死ぬかと思った経験も、死ぬかもしれないという予感も、そのどちらも酒呑みな知人たちの何倍も味わっているようで、そんな風だから精神科通いも続くし、抗鬱剤も飲み続けなければならないのだが、全てに気づいて全100危機の人生と、全てに気づかず実際には全500危機の人生とでは、やはり後者の方が幸せな人生であると考えられ、しかし、全500危機を一つも気づかずに生き続けるような者はよほどの無神経であるとも想像でき、きっと500の5乗くらいの他者を無意識に傷つけているはずで、だとすれば全100危機を察知したうえ、全800思い過ごしの危機を味わった者の方が他者への思いやりも強くなっている可能性があり、そうであれば暗い人生にも多少の誇りがもてるかもしれず、積極的にそう考えて生きていこうと一瞬は決意しかけたものの、涙の数だけ強くなるとか逆境が人を強くするとか、そういった人生訓の大半はそう考えなければやっていけなかっただけの迷惑な負け惜しみ感覚のような気がずっとしていたことを思い出し、それらの人生訓を押し付けてくるような人間は1000の5乗くらいの他者を苦しめているはずなので、これからも大人しく残りの危機と危機ではなかったのに危機だと勝手に感じる苦悩を味わいつづけていこうと思う。

 

(追記)こんな自分は果たしてこの映画を鑑賞しても大丈夫なのだろうかと『ボーはおそれている』の予告編を見て考える。いくら監督:アリ・アスター、主演:ホアキン・フェニックスという、どうしたって気になり過ぎる布陣で制作されているとはいえ、この厄介な性分の人間が「映画鑑賞」というだけの心構えで対峙して良いものだろうか。


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