2020-01-01から1年間の記事一覧

『空にかたつむりを見たかい?』 第10回

「じゃあ、晴れた日を狙って、その川に行くの?」 パンを食べ終え、浸すものがなくなったマリサは、スープだけを啜ってから言った。 「夏休みになれば、何回か晴れるかなと思ってね」 「でも、晴れるたびに、あの川ばっかりにいたら、さすがに怪しまれるでし…

『空にかたつむりを見たかい?』 第9回

「そういえば、かたつむりって蝸牛って書くよね」 マリサが正面にいる僕を睨むようにして言う。本当に睨んでいるのかどうかはわからないけれど、マリサの目つきは大抵こんな感じだ。 「アユムの言ってる空飛ぶかたつむりと、大竹さんの見た手乗り牛も何か関…

『空にかたつむりを見たかい?』 第8回

「そういえば、昔、さまぁ~ずの大竹さんが、手乗り牛を見たって言ってた」 眉間に皺を寄せながら、ちぎったコッペパンをスープに浸し、マリサは言った。 食事中のマリサは、いつも不機嫌そうな顔をしている。どうして、そんなに不味そうな顔で食べるのだろ…

『空にかたつむりを見たかい?』 第7回

ついでに、僕が企んでいることも、こっそり白状しておこう。 僕が三歳のころのことだ。 母さんが、家から四百メートルほど離れたところにある川まで散歩に連れていってくれた。よく晴れた日だったけれど、前日までは大雨だった。だから、道路はまだ少し濡れ…

『空にかたつむりを見たかい?』 第6回

「塔子さんは、一度も見たことないんですか?」 「なにを?」 「ここの盛り上がってた時期の運動会です」 「あたしは知悦部小の子たちが進む中学校の出身ってだけで、知悦部小の子じゃないからね。そもそも小学校までは、札幌にいたし」 「中学になってから…

『空にかたつむりを見たかい?』 第5回

「手が止まってるよ、あゆむん。そんなに運動会の写真つまらない?」 塔子さんが、ペットボトルのお茶を僕の頬に押し付けながら言った。考えごとをはじめると、手が止まるのは僕の癖だ。「僕の癖」と呼べるほど珍しい癖ではないけれど。 「向こうで知り合っ…

『空にかたつむりを見たかい?』 第4回

かたつむりは、わずかな土地を這いまわるだけで一生を終える。土佐先生から借りた吉村昭の『羆嵐』に書いてあったことだ。この地に永住することを妙に誇りに思っている人たちは、この本を読んだわけでもないのに、似たような考えを持っているらしい。いや、…

『空にかたつむりを見たかい?』 第3回

そんな『謎の湖底人シタカルト~』を、土佐先生や塔子さんが面白がってくれたのは、まだ理解の範囲内だったのだけれど、僕たちが卒業した後に知悦部小学校に赴任してきた楠本校長までもが気に入ってくれたのは、かなり意外だった。土佐先生と塔子さんからの…

『空にかたつむりを見たかい?』 第2回

知悦部小学校の閉校記念式典で流す映像の制作を頼まれたのは、中学二年になってすぐのことだった。 小学生の頃から現在まで、ずっと放送委員であること。そして、僕の代が知悦部小学校の最後の卒業生(僕たちが入学した後の二年間は新入生が入学しなかったた…

『空にかたつむりを見たかい?』 第1回

「らんちゃん、そんなバカな話、誰が真面目に聞いてくれるの?」 「事実だってことにしちゃえば、案外信じる奴が出てくるんだよ」 「それって、いいことなの?」 「いいことかどうかは、時と場合によるね」 ○○○ ○○○ ○○○ 知悦部(しりえっぷ)小学校閉校記念 …

ネット環境整備のため

ネット環境の整備のため、しばらくブログの更新をスムーズに行うことができそうにありません。しかし、たとえどんなに無益な駄文であろうと、日曜日と水曜日に必ず更新するスタイルを2、3年ほどは欠かさず続けてきたので、急に途絶えさせるのも気持ち悪く、…

主役であるとも知らずに

幼稚園の学芸会で披露する劇の役を決める際、「じゃんけんで決めていきましょう」と言われ、とりあえず全員でじゃんけんをさせられ、最初に勝った3人が希望も訊かれずに主役になった。その3人のうちの一人が私である。内容も聞かされないまま「狼の役」だと…

呑む阿呆に拾い集める阿呆

郵便局に用があったのだが、隣にある小さな病院の駐車場にアルコール飲料の空き缶が10本ほどまとまって転がっているのを見つけ、しばらく観察してしまった。 このクソ寒いなか、路上で酒盛りでもしたバカがいるのかと思ったが、バカでイキがった若者の酒盛り…

2019年の30選/20選

2019年に発表された各ジャンルにおける作品の個人的30選/20選。 【2019年の海外音楽アルバム30選】 アーサー・ラッセル『アイオワ・ドリーム』 Alogte Oho&His Sounds Of Joy『Mam Yinne Wa』 YĪN YĪN『The Rabbit That Hunts』 ヴルフペック『ヒル・クライ…

来なくてもいいのに勝手に来やがったんだから少しは良い思いさせなさいよ、2020

年齢のせいか、はたまた時代のせいか、新年というものがさっぱり嬉しくなくなってしまって久しいが、来なくてもいいのに奴は勝手にあがりこんでくる。正月飾りがあるじゃねえかとおぬかしやがるが、それは福の神さまたちへのものであって新年氏に対してでは…