2017-01-01から1年間の記事一覧

『東京腸女むすび』(19・完)

飛行機を降りて、空港へ入った途端、人の多さにすこしだけめまいがしました。 ひくひくひくひく。 東京はあいかわらず人だらけですね。 同じ空港でも、仰光堂の最寄の空港では、人もまばらだったというのに。 わたしは、そっとお腹をおさえます。 きっとこの…

『東京腸女むすび』(18)

わたしが祖母のお墓参りをさぼっていた理由は、両親には車の運転が苦手だからだと伝えてあります。 罰当りな理由と思われるかもしれません。 嘘ではないのですけれど、しかし、やはりどこかで祖母の記憶と対峙することを避けていたのでしょうね。 「このお供…

『東京腸女むすび』(17)

「克仁さん」 わたしは、自分の頭がこれまでの人生でいちばん冴えわたっているような感覚になっていました。 名前を呼ばれた克仁さんは、そんなわたしの気分を、なんとなく察したようでした。ですが、それが自分にとってどんな未来を意味するのかは、分かっ…

『東京腸女むすび』(16)

結局、花火に興味のないわたしは、延々と好きなお笑い芸人さんのコントを頭の中で再生して、一人でくすくすうふふと思い出し笑いばかりしていました。本当に変な女ですね。そりゃあ、腸が飛び出たりもするわけです。 克仁さんは、やけに口数も少なく、花火を…

『東京腸女むすび』(15)

お昼休憩の時間に、克仁さんと喫茶店でお会いするのも、これで二度目になりました。 これで二度目というか、お休みの日にお会いしたことを含めても、まだ三回しかいっしょにお茶をしていないのですね。 今のわたしが、どれだけ男性とお付き合いすることに向…

『東京腸女むすび』(14)

サトウさんも交えて塔子さんとお会いしたことがありました。 そういえば、あの時も塔子さんは、自主制作映画のお手伝いをしていたのでした。 「撮影に使わせてもらうスタッフの部屋がド汚いから掃除しなくちゃいけないんだけど、なっちゃん掃除上手そうだか…

『東京腸女むすび』(13)

わたしは、今もなお、少年文学の名作『トム・ソーヤーの冒険』を最後まで読むことができていません。 しかし、私のお部屋の本棚には、『トム・ソーヤーの冒険』の古い文庫本があります。かつて、サトウさんからいただいたものです。 お付き合いしていた頃、…

『東京腸女むすび』(12)

町の行く末が心配になりそうな地方都市とはいえ、デパートの中のチェーン型喫茶店は、さすがにお客さんがわたしと克仁さんだけということはありませんでした。喫茶店の外に目を向けても、他の目的を持ってデパート内を歩く人たちが見えます。 わたしは、デパ…

『東京腸女むすび』(11)

「ちょっと心配してたけど、トラブルにはならなかったのかな?」 春ごろ話題になった映画のブルーレイが発売になったので、わたしが販促ポップをせっせと組み立てていると、岡田主任から声をかけられました。 「トラブルってなんのことですか?」 「あの、ほ…

『東京腸女むすび』(10)

裸のお付き合いというものを好む方が世の中にはいるそうです。 好むどころか、それをしないと他人とは分かりあえないとすら考えている人もいるとか。 おそろしいことです。 その人たちは、秘密裡に「裸の付き合い教」という宗教団体をつくり、それは、この日…

『東京腸女むすび』(9)

両親は、ひとり娘であるわたしに「いつまでもふらふらバイト生活してないで、ちゃんとした仕事に就きなさい」とか「そろそろ結婚のことも考えないと」といった小言をまったく言ってきません。ありがたいことです。 親戚のなかには、わたしのことを、地に足を…

『東京腸女むすび』(8)

わたしはたまに、塔子さんは天気を操ることができるのではないかと思うことがあります。なにしろ、彼女と会うときは、いつも雲ひとつないような快晴なのです。ひょっとしたら、塔子さんは雨というものを見たことがないのではないかとさえ思ってしまいます。 …

『東京腸女むすび』(7)

わたしが住まいにしているのは、仰光堂から歩いて十五分ほどの場所にある、二階建てのアパートです。腸の飛び出た女の住処、と書くと、なんだか妖怪みたいでおもしろいかもしれませんね。実際、今のわたしは妖怪みたいなものです。でも、このアパートからは…

『東京腸女むすび』(6)

季節の話といえば、わたしが仰光堂でお仕事をはじめた年に、こんなことがありました。 クリスマス時期のことです。 店員全員がサンタ帽子をかぶってお仕事をすることになりました。 茅原主任も、おおきくて強そうな身体の鎌田店長も、みんな照れ照れでサンタ…

『東京腸女むすび』(5)

わたしよりも三つ年上で、長身美麗の才女である塔子さんとは、大学に入った年に出会いました。 塔子さんは、出会った頃から「あたしは自分の人生を余すところなく楽しんでいるぞ!」というオーラを全身から放っていました。そして、彼女の周りには、同じよう…

『東京腸女むすび』(4)

大学をなんとか卒業して五年が経ちました。 わたしはいま、北海道のとある地方都市に住んでいます。 北海道は地元ですが、この町が地元というわけではありません。なるべく、知り合いに出会うことは避けたかったので、結果オーライではありましたが、かねて…

『東京腸女むすび』(3)

勝手にひと呼吸おいてしまって申し訳ありません。 それだけ、話しにくいことなのです。 きゅるきゅるきゅる。 大学時代にお付き合いをさせていただいた方がいました。 ひとつ年下の男性でした。 わたしは彼を「サトウさん」と呼び、彼はわたしを「小竹さん」…

『東京腸女むすび』(2)

ほんのわずか、ひょっとしたら他のひとたちにも、似たようなことが起きているのではないかという期待を持ちました。 なにか、それこそ超自然的な出来事が一帯を襲ったのではないか? あるいは神を冒涜するような恐ろしい秘密兵器が使用されて、人間の身体を…

『東京腸女むすび』(1)

腸のきれいなおねえさんは好きですか? ○ ○ ○ こんなわたしでも、大学生の頃は、ひまさえあれば新宿や渋谷、池袋や秋葉原、ときにはざわざわうごうごとした下北沢などを、なにかいいことないかしら、なにかおもしろいものないかしら、と歩き回っていました。…

3月下旬の弁当自販機はアイルランド訛りの日本語で対応する

ツイッターで続けている文字数制限140字ちょうど(ただし「」付きなので、実質138文字)の短いお話を毎日1作投稿する活動(リハビリ的な意味もある)。3月後半のまとめ(30日と31日にツイート予定のものも含む)。 「弁当の自動販売機を久しぶりに見つけたの…

それは優しさなんかじゃないと思われているんだ

「やさしい人が多い場所を「ぬるま湯」と呼ぶ風潮が本当に嫌いだ。いまそこにいる人たちがなんの努力もせずにその場所にたどり着けたとでも思ってるんだろうか」――というツイートが流れてきた。そう言いたくなる気持ち、あるいは状況をまったく想像できない…

HI-Cのパッケージはとっておくべきだった

普段は、あまり清涼飲料水というものを好んで飲んだりしないのだが、日本映画学校を受験する際に宿泊したホテルのミニバー(部屋に備わっている冷蔵庫。中には割高の飲みもの)は随分と利用した。それなりに緊張していたせいか、やけに喉が渇いたのだ。 そう…

フレンズになれそうにないヒトたちのことは置いておいて

3月30日(木曜日)の20:00から放送される『石岡良治の最強☆自宅警備塾』の議題が『けものフレンズ』だと知り、これまで「きっとハマってしまうだろうから、とりあえず放送が終了するまでは気にしないようにしておこう」と意識的に避けてきたアニメ版『けもの…

3月上旬のマイアサウラが売れ残ったドリアンに困る

ツイッターで続けている文字数制限140字ちょうど(ただし「」付きなので、実質138文字)の短いお話を毎日1作投稿する活動(リハビリ的な意味もある)。3月前半のまとめ。 「独り身のマイアサウラが、自分はマイアサウラであるための必要条件を満たせていない…

文明がなければ生きていけないのに文明を捨てようとする人がいるから私は文明以前を恋しく思う

自分の部屋でも街中でも、あるいはどこかの山や森の中でもいいのだけれど、ふと立ち止まってぼんやり考えることは、今自分がいる場所で過去に何があったかということで、それも私が考えがちなのは、人類誕生以前のこと、つまり自分が立っているこの場所で、…

どうしたら自動車……いや「自家用車」というものを減らせるのかいつも考えている

我が家からゴミステーションまでは、約700メートル。走っていくのにちょうど良い距離だ。ジョギングより少し速く走っても、さほどこたえることもない。この時期にもなれば、雪もだいぶ溶けていて走りやすい。しかし、除雪のたびに寄せ集められた雪が歩道に高…

元オリーブ児童が旅になかなか出られなかった理由

少年マンガ誌を一切読まない小学生だった頃の私は、周りに隠れて『オリーブ』を読んでいたのだが、全校生徒が多い時で40名に満たない僻地小学校においては、女子児童の中ですら『オリーブ』を読んでいた子が存在していたのかどうか疑わしい。もしも、私が通…

2月下旬に出会ったねこふやしはパトリシア・F・ジョーンズを知らない

ツイッターで続けている文字数制限140字ちょうど(ただし「」付きなので、実質138文字)の短いお話を毎日1作投稿する活動(リハビリ的な意味もある)。2月後半のまとめ。 「ねこふやしに出くわした。夜中に小腹がすいて、コンビニであんまんでもなんて考えて…

好きこそ物の上手なれ、とは言うものの

「今、自分が好きなものよりもすごいものに出会ってしまうのが怖い」とか言っていた人が、90年代の文化から抜けきれずにいる人たちを否定的に語るツイートをリツイートしていて、こういう人たちは、どれだけ自分の過去の発言を覚えているのだろうと不思議に…

獄中飲酒

世界を好きにして良いのなら、酒に酔っている状態の人間を野放しにできないよう法律を変える。 居酒屋は基本的に牢獄状態にしておいて、飲みたいのなら、まず牢へ入ることが義務付けられる。牢の中で飲み、酔いが醒めるまでは牢から出られない。酒気帯び運転…